福井地方裁判所 昭和43年(ヨ)283号 決定 1969年2月15日
債権者 高木芳夫<ほか一四名>
右一五名訴訟代理人弁護士 梨木作次郎
同 八十島幹二<外五名>
債務者 福井放送株式会社
右代表者代表取締役 加藤尚
右訴訟代理人弁護士 吉田耕三
同 馬場東作
主文
一、債務者は、債権者高木芳夫、同浜野有三、同山本哲男、同坂本幸夫、同福地健一、同上田一郎、同高橋国彦、同望月真千子、同田辺真紗子、同中川光夫、同安藤哲夫、同高橋節子に対し、それぞれ、昭和四三年一二月以降毎月二五日限り別紙第一目録記載の各金員を仮に支払え。
二、債務者は、債権者望月栄達に対して金六八九、四六三円、同赤尾博治に対して金七六六、〇二〇円を仮に支払え。
三、債権者らのその余の申請をいずれも却下する。
四、訴訟費用中、債権者山本敏子と債務者の間に生じたものは、同債権者の負担とし、債権者望月栄達、同赤尾博治と債務者の間に生じたものは、債務者の負担とし、なお、その余の債権者らと債務者との間に生じたものは、これを五分し、その四を債権者らの負担、その余を債務者の各負担とする。
理由
第一、申請の趣旨及び理由
≪中略≫
第三、当裁判所の判断
一、被保全権利について
(一) 債権者らの賃金請求権
1 前記当裁判所の判決並びに決定によれば、債権者望月栄達、同赤尾博治は昭和四二年一二月一四日まで、同債権者らおよび債権者望月真千子、同山本敏子を除く債権者らは現在まで、債務者会社の従業員であると一応いうことができ、また債権者望月真千子、同山本敏子は、現在まで債務者会社の従業員であるから、債権者らは、債務者に対しその間の賃金請求権を有するものといわなければならない。そうすると、債権者望月栄達、同赤尾博治は、昭和四二年一二月一四日まで、その余の債権者らは現在まで、債務者会社に対し、FBC労働組合と債務者の締結した労働協約による賃金および一時金等を請求することができることになる。第一の二(一)中7、8の項に認定した労働協約中のいわゆる不就労控除の規定は、債権者らが就労しなかったのは前記ストライキ期間中を除き、債務者会社の責に帰すべき就労拒否にもとづくものであるというべきであるから、右不就労控除の規定は、債権者らに適用されないと解すべきであり、また、指名ストライキは、正当な争議行為であったと解される。しかしてこの期間中は、従業員である債権者らにおいて、賃金並びに一時金の請求はできないけれども、この間全く昇給しないとする前記規定を債権者らに適用することは労働者のスト権を奪うものであり、不当労働行為であって許されないところである。また、試用期間の延長通知を受けている債権者高橋節子については、債務者会社就業規則には、試用期間を延長する旨の規定はないから、同人だけが試用期間を延長され、その間全く昇給しないという理由はない。したがって同人についてもまたその他の従業員と同様に前記労働協約を適用すべきである。
2 しかして、債務者会社は、債権者らの賃金の昇給を認めず、債権者望月栄達、同赤尾博治に対しては別紙第七目録下段に記載した金員のみを、その余の債権者らに対しては現在まで同目録下段に記載した金員と、同目録上段に記載した賃金を毎月二五日限り支払っているに過ぎないから、債権者望月栄達、同赤尾博治は、昭和四〇年度から同四二年一二月一四日までの賃金の昇給差額分および一時金等の、指名ストライキをなした債権者中川、同安藤、同高橋節子、同山本敏子以外のその余の債権者らは、昭和四〇年度以降現在までの賃金昇給差額分および一時金等と将来の賃金等の、また右指名ストライキをなした者らは、その解除後である昭和四二年一月二七日以降現在までの賃金昇給差額分および一時金等と将来の賃金等の各支払を請求する権利を有するものと一応いうことができるのである。
(二)1 債権者らの昭和四〇年度ないし同四三年度の各賃金額は、別紙第三目録、同第四目録、同第五目録によって算出すると、別紙第六目録記載のとおりである。もっとも債権者田辺真紗子は、嘱託として債務者会社に雇用されているものであるところ、嘱託者の賃金体系は実際に勤務している職種により決定すべきものであるが、同人の職務内容については何ら具体的主張疎明がない。したがって同人の賃金は同人にとって有利な賃金体系である別紙第四目録記載の各年度上段を適用することはできないから、同目録各年度下段の常傭雇員の賃金体系によって算出すべきである。
2 次に前記のように債務者会社は、昭和四〇年度以降現在まで債権者望月栄達、同赤尾博治に対しては別紙第七目録下段記載の賃金を支払ったのみであり、またその余の債権者らに対しては右第七目録記載の金員を支払ったのみであるから、別紙第六目録記載の債権者らが債務者から支払を受くべき賃金と右のすでに支給済の賃金との差額を算出すると、その差額分は、別紙第八目録記載のとおりである。
3 次に別紙第九目録により債務者が債権者らに支払うべき一時金は別紙第二目録一時金欄に記載したとおりである。
4 してみると、債務者は、債権者らに対してそれぞれ別紙第二目録の債権合計額欄記載の各金員及び債権者望月栄達、同赤尾博治を除くその余の債権者らに対しては右金員の外さらに別紙第一目録記載の各金員を昭和四三年一二月以降毎月二五日限り支払う義務があると一応いうことができる。
二、保全の必要性について
(一) まず債権者らが昭和四三年一二月以降毎月別紙第一目録記載の金員の支払を求める部分について考えてみる。
債権者望月栄達、同赤尾博治を除くその余の債権者らは、現在いずれも債務者会社から受ける賃金でその生計を維持しているものであるが、右の債権者ら(但し債権者望月真千子、同山本敏子を除く)は、債務者から昭和四二年一二月以降は、前記当裁判所の仮処分決定によって別紙第七目録上段記載の金員を受領しているだけである。しかしてその金額はいずれもかなり低額であって、物価騰貴の傾向にある現状に鑑み、今後右の金員だけで生計を維持していくことは困難であるということができ、また債権者望月真千子も、債務者から別紙第七目録上段記載の金員を受領していただけであるから右と同様である。
なお、債権者山本敏子は、前記のように昭和四四年一月八日から債務者会社で就労しているものであるから、同人については、別紙第一目録記載の金員を、債務者会社に仮処分で支払わせる必要性はないというべきである。
してみれば別紙第一目録に記載された債権者らのうち、債権者山本敏子を除くその余の右債権者らが昭和四三年一二月以降毎月右目録記載の金員の支払を求める部分については必要性があるから、右の部分は仮に認容すべきである。
(二) 次に債権者らが債務者に対して別紙第二目録中の債権合計額欄に記載した金員の支払を求める部分について考えてみよう。
まず債権者望月栄達、同赤尾博治の両名は、昭和四二年一二月一五日以降現在に至るまでの賃金は、全く受領していないのである。そして右両名は、前記債務者会社の昭和四二年一二月一五日付の予備的解雇の効力を争い、当裁判所に地位保全等の仮処分を申請して、債務者と現に係争中であるが、当裁判所が、右事件について最終判断を下すまでには相当の期間を要することは明らかである。そして右両名は、昭和四二年一二月一五日以降現在まで、一応収入の途はなかったということができるから、右両名が別紙第二目録記載の債権合計額から、レクリエーション補助金を控除した各金員の支払を求める部分は、仮処分の必要性があるというべきである。
しかしその余の債権者らは、右(一)に判断したように、昭和四三年中は、別紙第七目録上段記載の各金員を毎月債務者から受領しており、その金員で一応生計を維持していたのであるから、第二目録の債権合計額欄記載の金員の支払を求める部分は、仮処分の必要性はないというべきである。
三、結論
よって、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条第九二条第九三条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 天野正義 裁判官 高橋爽一郎 多田周弘)
<以下省略>